サトルとタケル / 未亡人と生まれ変わりの子供 / 未亡人と吸血鬼 / 未亡人 /
吸血鬼と生まれ変わりの子供 / 吸血鬼と眷属

▼サトルとタケル

CW双子で『優先順位』

 「でね、今度はアレトゥーザに行くんだよ」
 「その次はグラードだったな」
 「うん、後はみずたま池で魚釣りもするんだよね」
 「賢者の塔も行きたいな……」
 「魔術の参考になるものがあるといいよね」

 「――で、お前ら依頼はいつ請けるんだ?」
 「あっ」
 「あっ」
 「(溜め息)」

※親父さんと


『死ぬまでの君を全てください』

 俺の全てをあげるとは言えるのに、君の全てをくださいと言えなくて、つまり、いつまでも臆病者。

※言えたらそれはプロポーズ


『きっとそれで正解』

 吸血鬼になった時のことを考える。太陽が苦手になる、川に入れなくなる、聖水が苦手になる、エトセトラ。失敗したら傀儡になる? 死んでしまう?
 それでも、もう百年もしないうちに、確実に片割れを置いて逝くのだと思えば。
「――あのね、」
 この選択は間違っていないはず。


『慰めてよ』

 別に気にしてなんかないよ。気にしたとしたら、タケルと同じ顔を貶されたのが、タケルを貶されたようで、嫌なだけ。種族が違うだけで、そんなに変わらないよね? 人間でも、大丈夫だよね?
「人間でも人間じゃなくても、サトルはサトルだろ?」
 ――うん、そうだよね。ありがと。

※エルミナ2のコンバート版


『残された時間』

簡単で美味しいガーリックトースト。涼やかな海のしずくの香り。荘厳で静かな教会。
小雨の降る中、冷たい川に足を浸しながら、順番に噛み締めてきたものを思い出す。
空の色をした、青い銃身は手に馴染んでいる。哀れな女性の遺したロザリオが鳴る。

もう少しで、さようなら。

※もうすぐ人間やめます


『人生で一番』

 一番辛かったこと、弟が仲間を亡くして一人で帰ってきたこと。一番驚いたこと、弟が人間でなくなっていたこと。一番悲しかったこと、先に死んでしまうと気付いたこと。嬉しかったこと、は、一緒に生きてくれると約束してくれたこと。
 「全部俺じゃないか……」
 「あ、ほんとだ」


『ご機嫌取りも楽しみのひとつ』

 弟がベッドから出てこない。吸血鬼になり、三食も不要なことから、放っておけばいつまでも引きこもることは経験上分かっていた。
 だから。
 「ローズティー、葉から作ったんだよ。タケルに試してみて欲しいんだ」
 そう呟くと、シーツの中から顔が覗いたので、こっそり笑って出迎えた。

※拗ねられたりしたんだろう


『愛される条件』

 愛される条件? 女の人が好きそうな話。
 俺は男で相手は弟だけど、少なくともきょうだいとしては愛してもらっていると思っている。
 そのためには、頭を空っぽにして大好きで埋めて。条件なんてきっとこれで十分。しかめ面の多い彼だから、ばかだなあって、苦笑でも笑ってくれれば良い。


『罠だったとしても』

 弟の居場所を教えてやろうか。
 姿を消したタケルを探し、数日間走り続けた脚。食事も通らなくて、空っぽの胃。満身創痍の俺のもと、突如現れたその人でないひとは、にやりと笑って問いかけてきた。
 間髪を容れず頷いた俺に、涼しげな顔の吸血鬼が呆気に取られたのが、やけにおかしかった。

※吸血鬼先輩。弟が姿を消した時の話。

▼未亡人と生まれ変わりの子供

『傘の下で』

 雨が桜を打っている。
 外では滅多に見ない、赤い番傘の下で、赤い服の少年と並んで歩く。
 身長が追いつかないのを、悔しいと少年は言った。
 隣に並ぶと顕著なせいか、ふと不満そうな表情を浮かべているのに気付く。
 なので、宥めるように額に口付けてやったら、少年は花開くように頬を染めた。

※未亡人とタケル


未亡人と生まれ変わりの青年

 「タケル、はい」
 「これ、なに?」
 「羽子板って言ってね、この羽根を落とさないように打ち合う遊びだよ。むかし、タケルとやったことがあってね」
 「むかし……思い出してないけど、俺もやってみたい」
 「そうそう、落としたら墨で顔に落書きするんだよ」
 「えっ」


未亡人と生まれ変わりの青年

 「あと一分だよ」
 くすりとして伝えると、少年が慌ててみせるものだから、少しだけ吹き出してしまう。
 制限時間内に指定の攻撃を当てられたらご褒美あげる。そう言ったらやる気を見せたこの子が、可愛くて仕方がなかった。わざと当たってあげようか、とちらと考えてしまうほどに。

※お手合わせ


未亡人と生まれ変わりの少年で『どうでもいいよ、そんなこと』

 「なんで出てこなかったの」
 「帰ろうと、思って……」
 「ここで暮らしてるんじゃなかったの? 嘘ついてたんだ」
 「……会っちゃいけないと、思って……」
 「なんで?」
 「……それが君のためなんだよ」
 「説明もなく言われても納得できないし、どうでもいいよ、そんなこと」


『しゃらっぷ、きすみー!』(未亡人と生まれ変わりの子供)

 「その、だって僕はまだ並びきってないし、恋人ともあんまり言い切れないし、というか保護者目線だろうし、恥ずか、」
 色々と本音をこぼす可愛らしい唇に、人差し指をそっと当てて、小さく微笑む。
 それで、結局してくれるのか、どうなのか?
 赤い顔が俯く。
「…………する」

※そんなことはいいからキスください

▼未亡人と吸血鬼

未亡人がひたすら探す

 『タケルー……あれ、いない』
 「……(隠れてるなう)」
 『タケルー』
 『タケルー?』
 『たーけーるーどこー?』
 「(雛鳥か……)」
 『タケルー……』
 『……たけるー……いなくなっちゃったの……(震)』
 「……あーもう」
 「(ぱっ)タケル!」
 「(俺も甘いな……)」

※求められて出てこれずにはおれなかった

▼未亡人

『君の傍』

 このまま亡霊のように生きて、俺は俺のままで、いつまで待っていられるのかな。
 灰ですら愛おしくて、灰を傍らに過ごして、するとそばに君がいる気がして、思い出して懐かしくて悲しくて、でも、遮る小瓶のガラスは冷たくて、声が聞こえなくて、触れられなくて、ただ、ただ、寂しくて。
 ――はやく、あいたい、な。

※未亡人ver


世話やきさんと

 墓は作らないのか?
 「……認めたくなくて」
 あれこれと世話を焼いてくれる、お節介な人。
 ただ一言で、次の句も告げないほど優しい人。
 「大丈夫です、分かっています。だから、いつかは」
 それまで、見ないふりをしていてください。
 心の中にすら墓標を立てられないほど、俺は弱い。


未亡人

 ずっと一緒にいようね、と約束したのは、何年も前の幼い頃のこと、そして今生よりも前のことだった。
 約束した片割れは、今や隣にはいない。
 「……嘘つき、じゃない。まだ、破られてない」
 物言わぬだけ、ひとの形をしていないだけ。
 ここにいる、そう信じてやまない。


未亡人

 魂と霊は同じといえばそうなる。灰が残っていても、端から見れば霊魂と同じだろう。
 不可視の彼と話す俺は、他人からすれば狂っているのかもしれない。
 否定も反論もしない。ただ、何も知らない第三者が、勝手に引き離そうというのなら。

 「――それ以上は許さない」

※弟を除霊するなんて愚かなこと


サトルで『いえない一言』

 そうすればよかったのかな、と濁す。冗談になりますように、と願う。あの時、一緒に死ねば良かったのかな。

 (つらい、よ)

※言ってもどうにもならない、もう終わっている


サトルで『全部全部、君のせい』

 穏やかな気候の桃源郷にも、まれに猛暑日が訪れる。みんなして湖へ出掛けてしまった、閑散とした日。
 浴衣すら暑くて、誰もいないからと肌蹴させて、すると髪が肌に貼り付いて。どうして伸ばしていたのやら、こんなだらしないやら、暑いやら。
 咎めてくれる人が、いないから。

※ひたすら熱い日に


↓その後精霊と

兄「…あ、ウンディーネひやっこくて気持ちいい…」
ウン『(だらけてますね)』
ゼフ『(美女に抱き付くとか)ずるい』
兄「ゼファーもちょっとひやっこい…」
ゼフ『そうだろう』
ウン『なんで自慢気なんです?』
兄「…っ(さむい」
ウン『ああもう着物着てください』


サトルで『夢だけの世界』

 そこには彼がいて、話すこともできれば、触れることもできた。物言わぬ灰でもなくて、今日あったこと、作ったもの、食べたもの、何でも通じて、知っていた。両の指すら絡めて、微笑みも見られるのに。
 そして覚醒に絶たれる、稀に見る夢のはなし、待ち続ける夢のこと。


『諦めきれない』

「外じゃ、もう何年になるんだ?」 そんな問いに曖昧な笑みで返す。歳をとらない場所で、そんなものはとうに忘れてしまった――と、返しつつ。実は正確に返すことができた。根拠は、彼を何一つ失わないため、密かにつけている日記の計上。
 桃源郷に来て80年目の、10ヶ月と16日だった。

※世話やきさんと


 髪を切らないのか。本来願掛けの意図であることを知っていた、世話焼きさんだからこその、今でも切らずにいることへの問い。考えるそぶりで頭を傾ければ、髪がさらりと滑る。
 「これがあると、その分構ってもらえるんです」
 へらりと微笑めば、幸せそうだと溜め息を落とされた。

※弟が梳いてくれたりする


『ハッピーエンドの来ない悲恋こそ美しい』

 寄れば草木は枯れて、精霊の力も奪われて、踏んだ大地は乾く。一方的に精霊たちの契約を切って放してやれば、残ったものは灰を詰めた小瓶だけだ。
 それでいいのかもしれない、と色褪せた景色に薄ら笑う。いつか倒れて花か樹にでもなれれば良い。そうすれば死神も見放してくれるだろうから。

▼吸血鬼と生まれ変わりの子供

兄さんが死んだ後の話もありまして

 おそらく俺と前のサトルとの決定的な違いは、俺はタケルが幸せでさえあればそれでいいという訳じゃないということ。
 だから、俺が幸せであれば幸せだというタケルの理論は納得できなくて、理解できない。
 つまり、自分が幸せになるために、もっと俺に求めてということだと、気付いて。


吸血鬼へ生まれ変わりの少年

 タケルにとってのサトルは唯一の片割れで、今の俺からは、それは喪われてしまったけれど。
 俺が生まれ変わりであるなら、それはまた新たな唯一だから、別に嫉妬なんてしない。
 だから、どうか、二人とも愛してください。

※ぜんぶ愛して


吸血鬼と生まれ変わりの青年

 「ここで待っていろ」  彼は静かに怒るひとだけど、本気で怒った時も静かなんだと、その時初めて知った。赤い瞳に殺意が篭っていることは、ひよっこの俺でも容易に見て取れた。
 それが恐ろしくて、彼が離れていってしまうようで、だから手を伸ばさずにいられなかった。

※レベル10超え吸血鬼は伊達じゃない


サトルで『花束を抱えて』

 何をしてるんだろう。出てきたばかりの店を見上げ、次に腕に抱えたものを見る。せっかくの依頼の報酬を、こんなことに使ってしまうなど。
 ――何本もの赤い薔薇。
 屋敷が殺風景だから。それが理由だから、それ以上はないのだ。勘違いしないようにと、自分で自分に言い聞かせた。

※吸血鬼に助けてもらったようだ


『そのセリフ、そっくりそのまま返す』(吸血鬼と生まれ変わりの子供)

 別行動したのに、途中でばったり。かたや大きなふかふか抱き枕、かたや大きく鮮やかな薔薇の花束。
 「……ほら、屋敷に薔薇似合うじゃん」
 「金が余ってたからな」
 言い訳は同時で、はたと見合わせる。思わず苦笑が漏れて、
 「素直じゃないな」
 「タケルには言われたくないよ」


『寂しいなんて言えない』(吸血鬼と生まれ変わりの子供)

 一緒に住んでいる吸血鬼は、過保護なようでいて奔放だ。
 俺が一人でどこかに行こうとすると随分気にしてくる(たまについてくる!)くせに、彼自身はふらりといなくなってしまう。
 単なる散歩だったり買い出しだったり狩だったりするから、心配はしていないし、してやらないけれど。

※ツンが生えてしまったので言えない


サトルで『上手な甘やかし方』

 彼には珍しく、朝からぼんやりしているようだった。返答は鈍く、どこか夢うつつ。少し考えて、彼の隣に座って、頭を捕まえて抱き締めた。
 久しぶりに眠りなんかしたから、寝ぼけてるんでしょ。
 そうからかうように言うと、かもしれないな、と観念したようにもたれかかってきた。

※甘え下手の吸血鬼と


『見えないサイン』

 サトルという子供は生意気だが、とにかく分かりやすい。独特の感性を持っているせいで意図を読めないことはあるものの、基本的に表情は豊かで隠し事が非常に下手くそだ。
 視線を感じて、ふと、を装って視線を合わせて。喉奥で笑って、額に軽く口付けてやれば、子供は嬉しそうにふてくされた。


『この、リア充が』

 晴れの日は、のんびり出掛けてお買い物。雨の日は、家にこもって雑然とお話。起きた時は当然隣にいて「おはよう」、寝る時もいつも「おやすみ」。離れていればメールとかいう文明の利器で話し、そうしている時の幸せそうな顔と言ったら!
 『りあじゅう』だっけ、と過去の自分に毒づいた。

※前世の記憶に対して


『うん、知ってる』

今朝からの妙な不調は、まさに風邪のそれだった。彼にすぐ看破され、今は布団の中に詰め込まれている。隣には当然のように彼がいて、うつるからと離れるように言いはしたものの、返ってきたのは。
 「俺が放っておくと思ったか?」
 いいやと首を振って、甘えるように彼に少しだけ近付いた。


『ちょっと黙って』

違う。彼の持ってきたそれに興味を引かれただけで。ふかふかもふもふのぬいぐるみだったから、ギャップの酷さに驚いただけであって。思った以上に気持ちよかったからであって。そういう趣味ではない、決して。
 「で、気に入ったんだろう?」
 ――少し黙ってみたものの、頷くしかなかった。

▼吸血鬼と眷属

吸血鬼双子

 ひゃあぁぁ……情けない声で落ちるのを、細くも力強い腕が途中で妨げた。
 無理をするなと言ったろう、捕まえてくれたそのままに、呆れ声が降ってくる。
 でも、早く並んで飛んでみたくて、助けてくれる瞬間が堪らなく格好よくて頼もしくて、好きで。
 そう零すと、馬鹿と頬を摘ままれた。


↓その時の精霊たち

ゼフ『飛行練習なら我が手伝うのに』
射手『貴方も風精ですものね』
ゼフ『元々は我が嫌々運んでいたのだ』
ウン『嫉妬ですか?』
ゼフ『そそそそそんな訳があるか!!』
射手『(今どき珍しいほどの分かりやすさですわね)』
ウン『(これがツンデレというものですね)』

※ツンデレ乙


白痴で『指切り』

 あのひとがいなくなった。うろうろ、まわりをさがして、やっとみつけたら、おこられた。かってにうごくな、といわれたから、うなずいた。
 ――そうしたほうがいいきがして、そうしたくて、こゆびをさしだした。
 「どこで覚えてきたんだ?」
 ふしぎそうにあなたはいって、からめてくれた。


白痴で『届かない本当』

 「すき」
 けれどあなたはくしょうして、なでなでするばかり。
 すこしちがう、なにかがちがう、けれどそのなにかがわからない。ふくをひっぱってみつめるだけでは、ぎゅっとするのではたりなくて、けれどこれいじょうのつたえかたがわからない。
 「……すき」
 でも、いつか、ほんとうを。

※まだ表情にも出せなくて


白痴で『素直じゃないとこも可愛くてよろしい。』

 ゆめのなか、あなたにばらをあげた。いちどにらまれて、しせんそらされた。おはようして、それをおしえたら、あなたはくしょうしていた。
 「まあ、そんな時期もあったな」
 「かわい、かった」
 「……どうしてそうなるんだ?」
 おこるような、なきたいような、ふしぎなくしょうだった。

※兄さんだからこその感想


白痴で『忘れられた指輪』

 じっと何かを見ていた。元々首から下げていた、けれど眠る時に危ないからと外させていたチェーン。戯れにでも引きちぎれそうなそれが、大きく稚けない指から下がっていた。
 「お前のものだぞ」と事実を伝えてやると、安心したように、チェーンの先の、赤い石の着いた指輪を握りしめていた。


白痴で『受け止めてくれるのはあなただけ』

 しせんがたくさんむけられていた。かわいそうに、たいへんね。みんながあなたにいって、またしせんをむける。
 きもちわるい。そうきこえたきがしたから、そっとせなかにかくれたら、あなたはまもってくれた。
 だから、うさぎになってかわいがられても、あなたのそばがいちばんすきだった。

※所詮端から見ればということ


白痴さんで『言うと思った』

 サトルは吸血鬼のくせによく眠る。よく添い寝を請われるため、本を読みながら隣にいてやるが、ふと視線を向けた時に、タイミング良く目を覚まされることがある。
 ああ、今も。寝ぼけて、動かない表情がほんの少し和らいで。
 「たける、」
 言うと思った。分かっていたけれど、どうしても慣れない。

※名残を見せられる


『もしも魔法が使えたならば』

 あそこにいってみたい。「転移する、掴まれ」
 そら、とびたい。「風の魔術と組み合わせろ」
 ごはんたべたい。「まあ自動化しているしな。少し待ってろ」
 たけるのさとるになりたい。「……お前はお前だ」
 してくれないの? 「俺にできる事じゃない」

 (あなたにしか、できないのに)


『結婚しちゃおっか』

 一度すっかり殺したはずであるものの、器が器であるせいか、生前の記憶は残っているようだった。料理もその一つで、どうやって思い出したやら、味噌汁など作り始めたのが今日の夕方のことだ。
 「たけるに、ずっと、つくる」などと無邪気に言い出すものだから、冷えた心臓が傷んだ気がした。


『砂糖菓子のように甘く』

 すきな、ばらのはなびら、さとうでつけた。
 そう言って作ってきた薔薇の砂糖菓子。期待を込めて見つめてくる先で、甘すぎるとは言いづらい。だからコーヒーで胸焼けと一緒に飲み下して、礼と共に髪を撫でた。
 そうして、そこに浮かんだ微笑みが、驚く程甘くて。思わず頬が熱くなった。

※吸血鬼だってたまに照れる


『誰も欲しくない』

 お前の心の成長を思うなら、本来人間でも何でも色んな人と触れあうべきなんだろうな。
 ぽつりとおちたつぶやきをひろって、そうぞうする。いっぱいかんがえる。きづいたらうさぎになって、うでのなかにとびこんでいた。


『きっと大丈夫』

ときどき、あなたはつらそうな顔をする。
ただいまもおかえりもしたけど、ぜんぶあなたのせいだと思ってる。そんなことないと言いたいけど、こうかいはとても深くて。
でも、いっしょにいるから、もうだいじょうぶ。ゆっくり生きていけば、きっと。

※認めてもらえてから


『おさえた首元』

 ガラスを見る。かみをのばした、かれと同じ顔があって、ぼんやりとこちらを見つめてくる。
 もらった手かがみをのぞく。同じ顔がのぞいてくる、けれど、首もとに赤いあとがふたつだけあった。
 けんぞくのあかし、が今はただいとしくて、ふたつのあとをゆび先でそっとなでた。

※真実の鏡みたいな


『うーさーぎおーいし……』
「うさぎ、おいしい?」
「……調理したら美味しいかもな?(じっ」
「たべられる!(ぴゃっ」
「冗談だ。追う、の『追いし』だからな」
「おいかけられる?」
「熊か狩人あたりにだな」
「たべられる!?(ぴゃーっ」
(おもしろい……)
「さとる、たべてもおいしくないよ」ぷるぷる 「でも血はくれるんだろ?」
「もぐもぐは、いたいからいや」
「黒大福みたいなのにな」
「たべないで!」ぴゃっ


『逃がしはしない』

 じっと見つめて、狙いを定めて、標的に向かって、どん。力強く地を蹴って、標的に届く、触れる、捕まえる。振れる尻尾は無いけれど、ぷすっとして少しだけ自慢気になる。
 ――せめて犬ならサマになったか?
 うさぎから返されたフリスビーを手に、タケルは難しい顔で呟いた。

※うさぎに変身


『図書室の猫』

 この家には書さいがあります。そこに、ある日黒いねこがいました。にゃあと鳴くのでにゃあと返す、それだけでした。
 それから月が何回かすぎたころです。いつものあいさつをしたら、ねこはためいきをついて。
 「あいつは相変わらずだな」
 するとねこはいなくなり、もう現れませんでした。

※吸血鬼先輩


『こたえられない』

 めずらしく、あなたがふかくねむった。いつおきてくれるかなと、となりでずっとまっていた。ねいきもしずかで、いきてるかふあんなほど。
 なんどめかのよる、ねがえったせなかのさきから、ちいさなねごとがきこえた。なきそうなこえで、よぶのはなまえ。

 ここにいるよ、といえなかった。

※丸く収まる前の話


『永遠を現実にしてしまう人』

 みとめてくれること、それがずっと願っていたこと。でも、それがかなわなくても、「サトル」って呼んでくれれば、それだけで生きていられそうだった。
 いつまでもタケルのそばにいたかったから、それはおれがおれであるかぎり変わらないこと。

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