『さよならをしよう』のかなり後

 夜が怖いことがある。
 どうしても眠れない時がある。

 昔から、そしてそのさらに昔から、弟が隣にいればいつだって安心して眠っていられたのに、一度彼を喪ってからというもの、『いつも』はできなくなってしまった。
 眠る顔がこわい。何年経っても、穏やかな場所でただ静かに生きていても、フラッシュバックが未だに止まない。
 彼の呼吸は正しく寝息か、彼から感じる熱は正しく体温か、この現実は妄想ではないか。常に確かめずにはいられなくなって、そうしたら、とても眠れずにはいられなくなった。
 そういう時は、自分よりも小さくて細い少年の体に縋り付いて、生命を必死に確かめる。起こさないよう密やかに、徐々に解れていく恐怖に安堵しながら、今日はなんの夢も見ることのないよう願いながら。

 ――そうして、最近、残っていたという魂が肉体に帰ってきた。
 昼は今の彼で、夜は元々の魂という、なんとも奇妙な入れ替わり制で。
 すると、必然的に寝顔を見る機会は少なくなった。今の彼に罪悪感はあれど、わずかに安堵したのも否めなかった。

 身を切られるほどの寂しさも悲しみも愛おしさも、この先ずっと無くなることはなく、何がしかの形で、わずかでも薄れかけては警告のように思い出させられるのだろう。
 抱いて生きていく覚悟はある、けれど。
 もし、耐えられなくなったら――その時は彼に殺されたい。

 不安も安堵も生きるも死ぬも、どうか彼の傍らで。

普段幸せそうだけどたまにはネガティブ

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